愛犬家の残された財産の行方
朝日新聞デジタルの記事で愛犬家の男性の遺言で多額の寄付が神奈川県横須賀市に寄付されたとの事。
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2020年12月に亡くなった愛犬家の男性が遺言により横須賀市が運営する動物愛護センターで活用してほしいと約5700万円を寄付した。
動物愛護センターとは負傷したペットの保護のほか、引き取り先のない犬や猫の新しい飼い主を探す譲渡会等を開催する。
この寄付は亡くなった男性の「遺言執行者」が今年1月に横須賀市に対して寄付の申し出があり5693万7477円が同市に振り込まれた。
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人が亡くなった場合、その本人が持っていた財産(現金や預貯金、不動産。借金等の負の財産も含む。)を法定相続人(配偶者と子供等)が相続します。
今回の件は記事を見る限り、相続人がいたか?いないか?は分かりませんが、「遺言執行人」によって遺産が寄付された事に注目しました。
「遺言執行人」はあまり聞き馴染みのない言葉かもしれませんので、簡単に説明します。
「遺言執行人」とは被相続人(今回の場合は愛犬家の男性)が遺言を遺して亡くなった場合に遺言の内容に基づいて、その内容を実現するために手続きを行う者です。
この「遺言執行者」の指定については「民法1006条」に規定があります。
第1006条 遺言者は、遺言で、1人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三
者に委託することができる。
相続人の一人(配偶者等)が指定されたり、遺言作成をサポートしていた行政書士や弁護士等の専門家が指定される事が多いです。
また「民法1009条」ではこの「遺言執行人」になれない者も規定されています。
民法1009条 未成年者及び破産者は、遺言執行者になることができない。
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そして、「遺言」についてはいくつかの作成方法があります。
1,自筆証書遺言(民法 968条)
遺言書全文を自書しなければならない。(相続財産目録を除く。)
日付や氏名も自書し、印を押さなければならない。
作成日付の特定や訂正方法等、細かい作成上の注意点があるため、行政書士や弁護士
のサポートを受けて作成する事が望ましいと思います。(法律で定められている形式
に反する場合、遺言書が無効となる可能性があります。)
自筆証書遺言のメリットは
(1)紙とボールペンや万年筆(インクが消えないもの)があれば作成できる。
(2)費用がほとんどかからない。
(3)内容を変更したいと思ったら、すぐに書き換えられる。
逆にデメリットは
(1)法律で定められている形式を満たさず無効となる可能性がある。
(2)改ざんされたり、破棄される可能性がある。(遺言を見つけた相続人が自分に有
利なように遺言を改ざんしたり、自分に不利な遺言書を破棄(捨ててしまう)
する可能性がある。)
(3)相続人が遺言書を発見できない場合がある。(せっかく書いた遺言書も発見でき
なければ民法の定めに基づいて相続が実施されます。)
(4)遺言が発見されたら、すぐに開封できず家庭裁判所の検認を受ける。
上記、(2)については、ドラマや小説の中だけの話でしょ?と思われる方も多いと思
いますが、「現実は小説より奇なり」との言葉があるように何が起こるか想定できま
せん。
2,公正証書遺言(民法 969条)
遺言者が遺言内容を公証人に口授し、作成する事となっています。
しかし、遺言に示されている財産が本当に遺言者の所有物なのか?までは公証人には
分かりません。
通常では行政書士や弁護士等の専門家が事前に遺言者と打合せをし、どの財産を誰に
相続させるのか、はたまた第三者に遺贈するのかを聞きながら、遺言書の案を作成し
たり、推定相続人の戸籍の収集や遺言者の財産目録を作成し、遺言者に代わり、公証
人と打合せをしながら、公正証書遺言の作成日を迎える
公正証書遺言のメリットは
(1)公証人は裁判官を退官した者等(法律のプロフェッショナル)が就任している
為、法律要件の不備で遺言書が無効となることが無い。
(2)公正証書遺言は公証役場で保管される為、相続人等により書き換えられること
が無い。
逆にデメリットは
(1)費用が掛かる。(詳しい手数料は「日本公証人連合会」のホームページを参
照。)
(2)証人が2人以上必要。(行政書士や弁護士に「公正証書遺言」の作成サポートを
依頼すると証人を用意してもらえる事があります。証人費用がかかる場合があ
ります。)
(3)遺言を作成後、内容を訂正する場合には費用や手間がかかる。
3,秘密証書遺言(民法 970条)
遺言書に自筆での署名と印が押してあれば、他はパソコン打ちでも良い。
作成した遺言書は封筒に入れ封をし、遺言書に押した印で封筒を封印する。
公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨等を申述
する。等、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」を合わせたような遺言方法です。
秘密証書遺言のメリット
(1)内容を秘密にできる。(作成後、封筒に入れ封をしてから公証人に持って行く
ので内容は本人しか知らない。)
(2)改ざんされることを避けられる。(公証人に持って行くと公証人が封紙に署名
するので、この封が破られたりすると秘密証書遺言の効力が認められなくな
る。)
(3)遺言書の自筆での署名と印以外はパソコンでの作成が可能。
逆にデメリットは
(1)遺言書が無効になる可能性がある。(例えば、自筆での署名をしなければならな
いのに、パソコンで氏名を書いた等。秘密証書遺言での効力がない場合、自筆
証書遺言での効力を有する可能性(民法 971条)があるが、上記の場合、全文
自書していないため、自筆証書遺言での効力も無い。)
(2)手間や費用が掛かる。(公証役場への予約や公証人と証人への手数料が発生
する。)
(3)遺言の管理は自分で行うため、相続人が遺言書を発見できない場合がある。
(4)遺言が発見されたら、すぐに開封できず家庭裁判所の検認を受ける。
秘密証書遺言については形式の不備により無効になる可能性がある事や公証人等へ
の費用が発生する事等を理由に遺言方式として、あまり選ばれていません。
上記のほかに、「死亡の危急に迫った者の遺言(民法 976条)」等の特別の方式による遺言方法が定められていますが通常時には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」のいずれかを選択し、遺言書を作成します。
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これらの遺言を作成したからといって、遺言とおりに相続や遺贈が実施されると限りません。
例えば、「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」のデメリットで書いたように遺言書自体が発見されない場合や遺言書が形式不備で無効となる可能性があります。
今回の愛犬家の場合は「遺言執行者」を指名し、遺言の内容を実現させました。
この「遺言執行者」が行政書士や弁護士のような専門家であった場合、遺言の作成するところから関わる事が多く、遺言書が無効になったり、遺言書が発見されなかったとなる可能性はかなり低いと思われます。
また、遺言内容の実現以外にも煩わしい死後の手続きも専門家が遺族に代わり手続きを請負うことが可能です。
例えば、銀行口座の解約や死亡届等の各種届出、ご葬儀の手配やお墓の事等の様々な手続きを悲しみの中、ご遺族がしなければなりませんがご遺族に代わり専門家が手続きをする事が可能です。
また、「令和元年 家庭裁判所の司法統計」では家庭裁判所に持込まれる相続案件の内、5000万円以下の相続案件が全体の76%との結果が出ています。
相続財産のほとんどが住んでいた家や土地の場合、その分割方法や売却代金の取り分について揉めてしまう可能性がありますので、ご遺族が争族にならないように「遺言書」を遺す事を検討してみては如何でしょうか?
気になった方は信頼できる専門家にご相談される事をお勧めいたします。
遺言や相続は遺言を遺すご本人やご家族のプライベートの部分まで関わる事になりますので、親しい専門家や話しやすい専門家を見つけて、ご相談される事がご本人や遺されるご家族の不安を取り除く、第一歩となります。
金 子 行 政 書 士 事 務 所
行 政 書 士 金 子 秀 之
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